リッチOL小説~35歳、独身、理紗子の場合③~
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ミセス葉山とのランチは理紗子の痛いところを的確にグサリと刺した。
あれこれ考えながら午後の業務にあたるので、
パソコンのキーボードをたたくスピードはいつもの倍はかかっている。
思えば、自分の人生の幸せは人任せにしていたような気がする。
付き合う相手、結婚する相手が自分を幸せにしてくれると当たり前のように思い込んでいた。
幸せかどうかは、相手の年収やステータスによるところが大きくて、
与えられるものが高いものやブランド物であればいいという価値観だった。
でも、それって本当に幸せなんだろうか?
確かに、ビジネスクラスで初めてハワイに行ったときはすごい嬉しかったし、
1人前5万円もするお寿司屋さんは美味しくて最高だった。
でも、初めて自分が考えた商品企画が通ったときや、
学生時代に猛勉強して英検準1級に合格したときの感動の方がずっと大きかったし、
本当に満ち足りた気持ちになった気がする。
35歳、彼氏ナシ、キャリアナシ、もちろん子どもナシ。
やろうと思えばなんだってできる環境と言われたらその通りだと思う。
でも、だからといって、今日突然いいなと思った【ビジネス英語をもっと学びたい】に振り切る勇気が出ない。
はぁーっという深いため息が思わず口から出てしまった。
「藤原ちゃん~そんなため息ついちゃってどうしたのよ?
体調悪いなら、もうあと30分で定時だし、時間通りにあがってもいいわよ!
独身なんだから花金楽しんできなさいよっ」
と、部署内唯一の女性課長が笑いながら言ってきた。
仕事ができるけれど、関西出身で気さくな課長に笑い飛ばしてもらえるとちょっと救われた気持ちになる。
「ありがとうございます。お言葉に甘えて今日は定時で上がらせてもらいますね」
気づけば時計の針は17時半をさしていた。
―考え事してたらもうこんな時間。
課長の一言は嬉しいけど、呑むっていう気分じゃないな…
かといって、家に直行っていうのもなんか気が晴れないしな
なんて考えていると、あっという間に18時の鐘がなった。
気持ちが落ち込んでいるからか、帰り支度もいつもよりもたついてしまう。
ようやく企画課のフロアを出て、ビルのエントランスを歩いていると、突然肩をたたかれた。
「理紗子じゃない!こんな時間に珍しいね。
このあとデートの予定でもあるの?」
人事部にいる同期のエリカだった。
「ううん、今日は何の予定もなくて、どうしようかなって思ってたとこ」
そう答える理紗子に、エリカは
「じゃあたまには一緒にご飯しようよ!」
1人で帰るのも気分じゃなかったので、理紗子はエリカの提案をすんなり受け入れた。