
リッチOL小説~25歳、ショップ店員、ちえりの場合④~
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7月
ちえりのポストは、企画営業の中でも最も重要な出展社募集営業に決まった。
できるだけ多くの企業に出展してもらうべく、ダイレクトメールの送付や実際に会社まで足を運んで提案営業を行う。
営業マンは「会社の花形」と形容される事がある。
聞こえは良いが、実際は会社の資金調達係として最もプレッシャーがかかるポジション。
出展企業からのテナント費のみが収益となる為、出展数が少なければ少ない程、会社は赤字となってしまう。
3畳程のスペースを3日間貸出すだけで、出展企業がちえり達の会社に支払う金額は35万円。
決して安い金額ではない。
パーテーションで区切られただけのスペースが、たったの3日で35万円。
「商業ビルのテナント費は月々いくらだったんだろう…」
アパレル販売員の時には考えもしなかった疑問が浮かんだ。
これまで何となく売上と向き合ってきたが、数字への意識を変える事で、あの時の上司の言葉が少しだけ理解できる。
数字への抵抗感がなくなったのはマネースクールでの学びの影響かもしれない。
日常のちょっとしたところに、自分の成長が実感できるとなんだか無性に嬉しくなる。
既に展示会のお知らせはダイレクトメールを通じて、見込客となる各企業へ送られている。
ホームページも既に開設されている。
何度も出展してくれている既存客からは、少しずつ出展の応募が入っている状況であった。
展示会まであと3か月。
自然とお昼の時間も仕事の話になってしまう。
「川崎さん、ダイレクトメールをお送りした保険会社から連絡が入りまして。展示会の話が聞きたいそうです。」
「分かった。私のカレンダーを見て、日程確保しておいて。展示会まで時間もないし、できるだけ早い日でね」
「分かりました。」
ちえりと同い歳の川崎は営業活動に積極的で、ちえりが面接の中で提案した意見を取り入れてくれた上司でもあった。
お試しという形にはなるが、今回の展示会で商品関連の展示とは別に、
保険会社や人材サービス系のブースが設置される事になった。
川崎の働きで、確保したブースも埋まりつつある。
今回の出展の反応が良ければ、今後の展示会でスペース拡大の可能性もありそうだ。
川崎が上司からの反対にあいながらも、自身が企業を連れてくると啖呵を切った話はちえりの耳にも届いていた。
その責任感と実行力。同い歳とはいえ、彼女が今のポストに就いたのも納得である。
ちえりは彼女の背中を追いかけるべく、仕事に邁進していた。
元々器用な人間ではないので、怒られる事も1度や2度ではなかった。
それでも、ちえりの失敗を次に繋げる姿勢は川崎も認めてくれているようであった。