リッチOL小説~25歳、ショップ店員、ちえりの場合④~

リッチOL小説~25歳、ショップ店員、ちえりの場合④~

 

「白石ちゃん、今日のネイル可愛いね。いつもどこでやってもらってるの?」

 

食後のコーヒーを飲みながら、川崎がちえりの手に目をやった。

 

白石ちゃんは。

今では会社の皆がそう呼んでくれる。

 

「これ自分でやったんです。けっこう簡単なんですよ。」

 

普段からベージュ系のネイルを塗っているちえりだが、今日はフレンチネイルに挑戦していた。

爪先がマッドなグリーンで普段より大人っぽく見える。

 

これは先週行われたマネースクールのラインナップの一つ、「美ネイル」。

 

落とすのが大変なジェルネイルではなく、お手頃なネイルポリッシュを使った実習であった。

普段はネイルをしない人でも、結婚式等のお呼ばれの時に簡単で便利!と好評であった。

 

「マネースクールでネイルなんて面白いね。」

 

川崎と次回の体験入学の約束をした後、午後は他の上司と営業先へ同行させてもらった。

 

まだ一人で営業に行く許可は下りていない。

道のりは険しい。

 

 

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約束通り今日は川崎と共にマネースクールの体験入学。

 

今日のラインナップは「パーソナルカラー診断講座」と「insurance(保険)講座」の2つ。

 

自分の似合う色を見つける講座と、自分に合う保険が分かる講座。

 

 

「…日本人の保険の加入率は諸外国と比較しても高い事が分かります。それだけ将来不安が大きく、それは貯金好きの国民性からも分かる通りです。」

 

次のスライドに移る。

 

「しかしその実態は、‟家族に入るように勧められたという理由や知り合いのセールスマンに勧められるままに高い保険に加入した…という方が多く、無駄な保険に毎月お金を支払っているケースが多いです。」

 

 

そうそう、それでも別に保険なんてお守りだからいいや、って人が多いんだよね。

 

ちえりにとって既に3度目の講義。

初めて聞いた時は聞きなれない事ばかりで苦労したが、今ではすんなり耳に入ってくる。

 

川崎も興味深そうに受講していた。ちえりもほっとした。

 

 

「白石ちゃんが、現場で働いている人たちに還元されるような企業先へ出展をかけたいって言った意味が分かった気がする。」

 

駅までの帰り道、川崎がぽつりと言った。

 

それに応えるようにちえりも口を開いた。

 

「私、こういう習い事ができるようになったのって、お休みが土日になってからだったんです。

世界が広がったような気がして嬉しかった。

でも働く時間や場所によって情報が遮断されている人って大勢いると思うんです。

知りたくても、知れない人が。」

 

ネットやSNSの普及で、色んな情報が無料で手に入れられる世の中にはなったが、それでも情報は平等に降ってくる訳ではない。

 

「それなら、私たちが良い企業を展示会に呼ばなきゃだね。」

 

川崎の声は力強かった。

 

どんな時も仕事に繋げて考える姿勢。ちえりは彼女の事を改めて尊敬した。

 

 

翌日、川崎に同行した営業先で保険会社の出展企業がまた1社決まった。

確保していた展示ブースは全て埋まった。

 

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待ちに待っていたような、もう少し時間が欲しいと思ってしまうような展示会当日。

 

この展示会は来年春の新作のお披露目会でもある。

街は今季流行のグレー一色なのに、会場内は春らしいシフォン素材とパステルカラーのオンパレードであった。

 

華やかな色合いの一角で、お堅いスーツに身を包んだ集団も。今回川崎をはじめとする企画営業課の努力の結果であった。

展示会に合わせたのか、社員全員がピンクのポケットチーフを身に着けている保険会社もあった。

 

今回は特設ステージを設け、各企業の商品をモデルが着てランウェイを歩く事になっている。

初めての試みが詰まった展示会という事で、ちえりより先輩社員のほうがずっと緊張しているように見えた。

 

会期中は出展企業への挨拶、事務局として運営の手伝いを行った。

 

「すみません。運営の方ですか。6から12までの小間スペースでブレーカーが落ちてしまったようで…」

 

「すぐに担当の者を向かわせます。」

 

常駐してもらっている配線担当の会社に連絡し、自身も現場に向かう。

 

途中、保険会社や人材サービス系のブースを横切った。

それぞれのブースに人が集まり、時折談笑している様子が見てとれた。

 

思わず笑みがこぼれた。

川崎もほっとしている事だろう。

ちえりにとって初めての展示会は、設備の問題などはあったが、満足のいく結果で幕を閉じた。

 

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