リッチOL小説~25歳、ショップ店員、ちえりの場合③~

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リッチOL小説~25歳、ショップ店員、ちえりの場合③~

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今日は新しい仕事の面接を控えていた。

 

一つのドアが閉じたら、新しい扉が開く。

一番手っ取り早い扉は、仕事に専念する事だとちえりは思った。

 

これからは1人が1つ会社を持つ時代、なんて革新的な言葉が出てきても、正社員の魅力が損なわれる事はない。

むしろ、その信用力を使って資産形成に活かしている人たちが大勢いる。

 

数ある投資の中でも不動産がその効力を発揮するわけだが、

これまでお金の勉強を続けていく中で、独身の女性でも家は買ったほうが良い場合があるという事を知った。

 

その為には、更新月の度に継続勤務が可能かどうかを気にする必要のない仕事をしたいと思った。

ちえりは改めて正社員としてキャリアを作っていく事に決めたのだ。

 

これまで毎月入ってくるお金の事しか頭になかったちえりだが、キャリアを築いていく事を本気で考えられるようになった。

 

今日面接を受ける会社は、展示会の企画運営やeコマースを利用し、集客ノウハウを企業に提供している、立ち上がって9年目のベンチャー企業。

 

主にはアパレルやファッション業界の大規模な展示会を手掛けている。

 

今後はこれまでに培った各事業所の情報や人脈を使って、サービス業界に特化した人材斡旋も行っていくらしい。

 

ちえりがこの会社に魅力を感じたのは、やはりファッションに関する仕事に就きたいという思いがあったのと、ベンチャーらしい新規事業への取り組みに積極的であるという点であった。

 

 

面接会場に向かう電車の中で、これから受ける会社のホームページを確認した。

 

事業内容、沿革、社長挨拶…

一通り確認した後、ふと社員紹介のページに目が留まった。

 

面接の質問の中で使えるかも…。

 

社員紹介の文字を押すと、すぐに画面が切り替わった。

数枚の顔写真の下にはそれぞれ入社時期、役職が書かれてある。

 

 

201×年入社 企画営業部 係長

 

 

この肩書と共に若い女性の写真が載っていた。

 

201×年入社といえば、ちょうどちえりと同じ年に大学を卒業した事になる。

 

自分と同い年、もしくは年齢の近い人がもう係長という役職に就いている。

ベンチャー企業ではよくあるケースではあるが、ちえりは彼女に目が釘付けとなった。

 

彼女は新卒でこの会社に入社後、いきなりweb関連の新規事業の責任者に抜擢。その時の功績が認められ、現在ちえりが志望している企画営業で、サブリーダーとしてプロジェクトに関わっていると書かれてあった。

 

自分とは全然違う。

歴然としたキャリアの差に圧倒された。身の引き締まる思いがした。

 

面接が行われる会社に到着し、受付を済ませた。

応接室に通され、しばらくすると採用担当らしき男性と、もう1人女性が入ってきた。

 

その女性は紛れもなくホームページで見たあの係長であった。

写真で見るよりもずっと大人っぽく見える。

 

「ご足労頂きありがとうございます。本日は白石さんが希望されている部署で、サブリーダーとして働いている川崎も同席させて頂きます。」

 

川崎さんて方なんだ…

ホームページに名前の記載まではなかった為、そこで初めて名前を知った。

 

艶のあるショートヘアにネイビーのスーツを合わせて、いかにも営業といったかんじ。

メイクも自己流ではなく、社会人生活の中で洗練されてきた事が伺える。

 

単なる身なりだけではない。これまでの経験や成功体験が彼女の自信となって表れている。

 

ちえりは一気に緊張が増した。

こんな人が私と同じ歳なんて…

 

自己紹介や転職理由、自分の強み、これまでの経験、これからは企画営業という立場として営業に出てもらう事となるが、それは問題ないか、といった質問が次々と飛んできた。

 

なんとか練習していた通りに答える事ができた。

 

そして面接も終盤に差し掛かった頃、

「川崎さんからも何かある?」

 

人事の男性が係長に声をかけた。

 

彼女はじっとちえりの顔を見て、

「この会社って、自分の意見を話しやすい風通しの良い職場で、社員の声を基にした新規事業の立ち上げにも積極的なんです。

逆に言えば、自身の意見を求められる機会が多い職場でもあります。

白石さんは今後この会社で働く事になった場合、こういう事をしてみたいとか、事業に関するアイデアがあれば教えて頂けますか?」

 

ちえりは少し考えた。

そしてゆっくりと口を開いた。

 

「アパレルやファッションの業界は、離職率の高さや人材不足が問題視されており、私自身、給与面や不定期な休日に悩み退職したうちの1人です。

御社の展示会事業は現在アパレル商材に関するものが主との事ですが、企業が行う教育研修のアウトソーシングを行う会社や、金銭面で不安を持つ従業員へ向けた金融事業、例えば保険会社との連携など、アパレル・ファッション業界の展示会といっても、出展する企業様の幅はまだまだ広げる余地があると思っています。」

 

「つまり、展示会を見に来る企業の方たちの人材育成のお手伝いや、福利厚生面のサポートを行うような企業に出展の提案を行う、という事ですね。」

 

「はい。アパレルは特に人材の入れ替わりの激しい業界です。

単なる人材の確保では、人が次々と辞めていくため、根本的な解決にはなりません。

採用活動にかかる経費を考えれば、社員の働きやすさの拡充に特化した展示会に需要はあると思います。」

 

係長はちえりの話に耳を傾けながら、何度か頷いた。

 

「私からは以上です。」

 

係長のこの言葉で面接が終了した。

 

ちえりはこんなに緊張したのは初めて、というくらい緊張した。

緊張が解けると、新調してきたライトグレーのスーツが汗でひんやりしてくるのが分かった。

 

少し上からの発言だったかも、とか、あの時こう言えば良かった、とか、

今になって色々考えてしまったが、やれるだけの事はやった。

後は、結果を待つだけ。

 

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