リッチOL小説~35歳、独身、理紗子の場合②~

リッチOL小説~35歳、独身、理紗子の場合②~

20歳の夏。

突然の父親の脳卒中

 

まだ50歳になりたての父親が倒れるなんて夢にも思わなかった。

 

大手企業で管理職につく父は命こそとりとめたものの、今までのように精力的に仕事をすることはできず、閑職に回され、世帯年収は激減した。

ずっと専業主婦で優雅に暮らしていた母にはパートなど受け入れられるはずもなく、

支出カットを余儀なくされることになった。

 

そうなると、真っ先にやり玉に挙がったのが理紗子の学費だった。

名門私立大学の学費は安くない。

 

「リサちゃん、申し訳ないけど、3年生と4年生の学費だけ奨学金にしてもらえない?

将太と真奈もこれから大学進学があるから…

それと、留学も残念だけど諦めてほしいの」

 

2年分の学費は施設費を含めると300万円になる。

1年間のNY留学費用は約400万円。

 

700万円の借金をして社会人になるのは現実的じゃなかった。

 

「でも、お母さん、留学は私の夢なの!留学だけでもどうにかならないのかな?

 家庭教師のバイトも増やすし!」

 

食い下がる理紗子に母は

 

「お父さんもあんな調子だし、今までにみたいには出せないのよ…

 どうしても留学したいっていうなら、2年分の学費も留学費用も大体同じ金額だから、

どちらか片方にして、奨学金を借りるのはどうかしら?」

 

学費と留学。

どちらを取るかとなれば、98%のひとが大学を取るだろう。

理紗子もその1人だった。

 

1年間留学して帰国しても大学中退ではろくな就職先は見つからない。

もともと理紗子の留学の目的は楽しいNYライフを満喫することがメインだったから、

1年間の留学中に、就職先に困らないようなスキルやコネクションをつかみとってやるなんてガッツは沸いてこなかった。

 

SATCとNYに募らせた情熱はこうして消えてしまった。

 

留学がだめになってからは、留学や英会話の話なんて聞きたくもないから今までのサークル仲間や情報交換をする友達とは疎遠になった。

奨学金の返済額を少しでも減らそうと暇があれば家庭教師のバイトに明け暮れた。

 

そしてその家庭教師を派遣する会社で同じバイトに励む雅人と出会った。

雅人との甘い日々は理紗子に再び夢を与えてくれた。

 

“絶対に雅人と結婚して、幸せになるの!”

 

その夢は24歳にして消え失せ、一番大切な時期を不倫に費やしてしまい、

慌てて婚活に励むも、いいと思える男性には出会えない。

 

―もしあの時留学してたら、どんな人生になってたのかな・・・

 

そんなことを考えていたら研修が始まる時間になった。

 

語学研修というからネイティブスピーカーの講師かと思いきや、登壇したのは日本人女性だった。

 

日本人じゃ大した内容じゃないわね、と思っていた理紗子の予想を裏切って、研修はなかなか面白かった。

 

若いころに勉強した英会話は日常英会話ばかりだったけど、今日みたいなビジネス英語は初めてだった。

 

―日常会話とビジネス英会話ってこんなに違うんだ!

 英語でなら多少プレゼンもできるって思ってたけど、今のままだと全然ダメそう。

 もっと知ってみたい!

 

久しぶりに何かに対して「やってみたい」という意欲が出てきた瞬間だった。

 

「先生、よろしければランチをご一緒させていただけませんか?」

 

若いころ帯びた英語への情熱がまだ体の中に残っていたのだろうか、

研修が終わった直後、理紗子は勇気を出して講師をランチへ誘った。

 

「もちろんですよ、ミズ藤原」

 

白い歯を見せてにっこりと笑う講師のミセス葉山は40代後半。

キャリアウーマンらしく白のスーツをピシッと着こなし、髪は夜会巻きで美しくセットされていた。

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