
リッチOL小説~35歳、独身、理紗子の場合①~
「もちろんだよ♡ずっとあなたのそばで応援する!」
なんてモテテクニックのマニュアルに載っているような言葉は出てこなかった。
「そうだね…ちょっと…考える時間が欲しいな」
私の本心を悟ったのか、それから1週間後に雅人の方から別れを告げられた。
4年もつきあってたのに。
自慢のエリートの彼氏だったのに。
雅人レベルの人また1から探すなんて無理!
気持ちはどん底まで落ちて、2日ほど有給で休んでしまったほどだった。
日月火と休んでようやく水曜日に出勤できたものの、気持ちは晴れない。
水曜日はノー残業デイを守ってくれるホワイト企業な会社に感謝しながら、
1人で銀座のバーに寄り道した。
記念日の日に雅人と行った思い出のバー。
理紗子は自分でいうのもなんだが、結構美人な方だと思う。
サラサラのダークブラウンの髪、色白で目鼻立ちもくっきりしている。
少しフリルのついたナラカミーチェのシャツに
タイトスカート、ダイアナの8㎝のピンヒール
化粧品会社勤務らしく艶めいたメイクはお手の物の理紗子が
ためいきまじりに1人でグラスを傾けていれば、男が声をかけないわけがない。
「よかったら一杯ご馳走させてくれませんか?」
それが真山だった。
港区にあるTV局に勤める38歳。
会社にいるアラフォー男性とは比べ物にならないほど、エネルギッシュで若々しく、
ブランドはわからないけれど見るからに質のよさそうなジャケット姿が大人の男性を意識させる。
マスコミらしく情報通で聞き上手な真山は、傷心の理紗子が心を奪われるのには申し分ないほどに魅力的な男性だった。
あっという間に男女の関係になると、2人は暇があればデートを重ねた。
真山と付き合うようになり、理紗子は雅人がいかにお子様だったのかと思い知った。
雅人と付き合っていたころは年に一度のお楽しみと思っていた
すべての客室に露天風呂がついているようなラグジュアリーな箱根の旅館は
当たり前のように泊まれるようになった。
なんてことない日にだってハイブランドの革小物やアクセサリーをプレゼントしてくれる。
生まれて初めてビジネスクラスに乗ってハワイにも行った。
「こんな世界があったなんて!雅人なんかより断然エグゼクティブじゃない!」
真山との付き合いがもうすぐ2年経とうとしたある日のこと。
いつものように18時から西麻布のお寿司屋さんで握りをつまみながら、
暗証番号を入力しないと入れない会員制のバーで生フルーツのカクテルを楽しんでいた時だった。
忙しい真山を困らせまいと結婚のことなんて口にしたことのない理紗子だったが、
その時期は初めての友人結婚ラッシュで結婚願望がむくむくと芽生えていた時だっただからだろうか、ほろ酔いの勢いに任せてつい
「早く一緒に暮らしたいな」なんて言葉が口をついた。
そうだね、なんて言葉を期待していたのに、真山から出てきた言葉は残酷だった。
「そうしたい気持ちはやまやまだけどさ。俺、実は結婚してるんだよね」
悪びれもせずにさらっと言われた言葉で、ようやく自分が不倫をしていたのだと理紗子は気づいた。
確かに2年も付き合っているのに家に上げてもらうことは1度もなかった。
でも、多忙なTV局勤めなのに多いときは週に4回もデートをしていたから、
自分が浮気相手だなんて考えもしていなかった。
さすがに、不倫とわかってからも付き合い続けるほど真山への愛情はなかった。
仲のいい幼馴染が大学生のころ、不倫をしていて奥さんから50万円の慰謝料をとられたのはいまだに忘れられない。
大学生にとって50万円は安くない金額だった。
真山が既婚者と知らなかったはいえ、それが証明できなければばれたときの慰謝料は7桁は間違いない。
迷わず真山の連絡先をブロックした。