
リッチOL小説~25歳、ショップ店員、ちえりの場合①~
1月1日。元旦。
今日は1年で1番忙しい日。初売りだ。
1日に3回のタイムセールをこなし、福袋を売り、大量に送られてくる商品をバックヤードで検品してからお店に陳列する。その繰り返し。
「レジ列最後尾こちらでございます。お待たせしており申し訳ございません」
「ハンガーお取りさせて頂きます」
「ありがとうございました。またお待ちしております」
朝からお客様も多く、売上も好調だ。皆の息もぴったり合っている。
2回目のタイムセールを終えた後、レジを担当していたリナちゃんが申し訳なさそうな顔で近づいてきた。
「レジ金が5,000円合いません。どうしましょう。」
レジ金に誤差が出てしまった場合はその時間帯に出ていたスタッフが補てんする決まりになっている。これだけの数のお客様のレジを通すのだ。仕方ないといえば仕方のない事だと思う。
結局今日出勤していたバイトを除く正社員5人から1,000円ずつお金が徴収された。
少しだけ皆の士気が下がった。
1月1日
本日売上:1,568,292
本日予算:2,000,000
累計金額:1,568,292
月予算:2,100
達成率:7.4%
ライングループを送った後、お昼に検品できなかった大量の服と格闘する。
段ボールの中に入っている商品と納品書を照らし合わせ、在庫の確認をする。それを棚に詰める。
今日届いた段ボールは20箱。現在時刻21:30。22:00までにできる限り終わらせる必要がある。気が遠くなる作業だ。
9つの段ボールを開けてこの日は終わった。
いつもなら座って帰れる電車の中は、今日は全て座席が埋まっていた。
1日中ヒールで過ごした。足が棒のようだ。
電車が次の停車駅に近づくと、ちえりの近くに座っていた女性が立ち上がり、ドアのほうへ向かっていった。
ラッキー。空いた席にちえりが座る。
電車が止まって、ドアが開くとさらに人が入ってきた。年配の女性がちえりの近くに立った。目が合うと少し恨めしそうな顔をしている。
ばつの悪い思いをしながらもヒールでじんじんする爪先をかばう為に、さっと目線を外した。まるであの時の女性客のように。
ちえりがこの業界に興味を持ったきっかけはイギリスのファッションデザイナー、ヴィヴィアン・ウェストウッドの言葉であった。
‟You have a much better life, if you wear impressive clothes.”
「印象的な服を着る事で、人生はもっと良いものになる」
きっとこれは服に限った話ではないのだろう。
自分に合った仕事、
自分と合う友達、
一生の愛を誓う恋人。
皆自分に合うものを必死で探している。
しかし今の自分は何なのだろう?
連日ラインで皆の前でお叱りを受けて、疲弊した頭で謝罪と改善の言葉を考える。本当は謝る気なんてさらさらないのに。
身体の痛みと精神の痛みが伴った時、人はひどく落ち込んでしまう。
ちえりにとって今日はそんな日であった。
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