リッチOL小説~25歳、ショップ店員、ちえりの場合①~

リッチOL小説~25歳、ショップ店員、ちえりの場合①~

12月-

アパレル会社の販売員として働き始めて3度目の冬が来た。

 

アパレル業界にとって冬は戦争を意味する。

そう、もうすぐバーゲンの季節だ。

 

神奈川の某ショッピングセンターで働く白石ちえりは、若い女性から人気の高いファストファッションのお店で働く25歳。

清楚系、カジュアル系、ヤング系の3つのレーベルに沿って商品展開をしているこのブランドで、ちえりはカジュアル系を担当している。

 

両サイドの前髪を編み込みし、ダンガリーのシャツにプルオーバー、この時期に欠かせないコーデュロイのスキニーパンツにマニッシュシューズ。

日によっては黒縁の眼鏡をかける事もある。

 

155cmと小柄な体型ながらすらっとした足腰で、大抵の服は着こなせるが、清楚系一筋の店長や、まだ22歳の後輩リナちゃんにヤング系の服が行きわたると、自然と自分がカジュアル担当になる。

 

ちえりが勤務するお店は、都市開発によりここ数年で栄えた街の大型ショッピングセンターの中にある。

中高生の家族連れや地元の主婦、会社帰りのOLがこの店を多く利用する。

 

今お店にはクリスマスに合わせてデート服を選んでいるOLと、福袋の事前予約に来た大学生くらいの女性が1人。

 

お店はもうすぐ閉店の時間を迎える。

何とかしてあのお客様に買ってもらいたい。

今日の売上目標は25万円。

今の売上は247,824円。

あと2,000円足りない。

 

「ありがとうございます。ご予約承りました。11日から4日までの期間に、こちらの伝票をお持ちになってご来店ください。」

 

福袋の事前予約の対応が終わった。

お店にはちえりとワンピースを見ている女性客しかいない。

ファーストアプローチは問題なかったと思う。手に取っているパープルとホワイトのバイカラーワンピは、清楚な雰囲気のある彼女にぴったりであった。

試着に促すか、もう少し話を伺ってみるか、色々考えながら彼女に近づくと気配を察知した女性はパッと服を離し、そそくさと店を後にした。

 

 

1222

本日売上:247,824

本日予算:250,000

累計金額:3,241,778

月予算:530

達成率:61.1

 

ちえりはお店のライングループに今日の売上と達成率を送った。店舗内の共有ラインでその日の売上報告を行う事が、会社の決まりとなっている。

 

このライングループにはお店のスタッフと、この近辺のお店を管轄するマネージャーが入っている。

すぐに3人の既読がついて、その3分後にコメントが送られてきた。

マネージャーからであった。

 

『お疲れ様です。本日の売上あと2,000円で達成です。最後までお客様の動向を追いましたか?売れなかったら自分が買ってでも売上を達成させる。それくらいの気持ちを持ってください。たかが2,000円ではありません。積み重ねで売り上げは達成されます。』

 

マネージャーからの指摘はごもっとも。

たまに今日のような時に、自分のポケットマネーで服を買う事はあった。でも今日は給料日前。会社の売上より自分の生活を優先するしかなかった。

改札を入ってすぐのエレベーターでホームに向かいながら、ちえりは大きなため息をついた。

 

自宅の最寄り駅に着いて、駅前のスーパーに立ち寄る。

レトルトタイプのパスタソースを手に取る。お店で900円のパスタを食べるよりはずっと経済的。心の中で言い訳をする。

ここ最近、というより就職してからまともに料理なんてしていない。

お昼もだいたいコンビニで済ませている。

 

買い物を終えて自分の家にたどり着く。

大学の頃から住んでいた6畳間1Kのマンションに今も住んでいる。家賃は63,000円。

ここ3年の販売員生活で、部屋の中はもはやクローゼットと化していた。

 

社会人として働いているのに、学生の頃と生活水準が全く変わらない。

仕送りがなくなり、これまで家族が払ってくれていた携帯代も全て自分持ちになった為、月々の貯金は1万円できれば良いほうだ。

今より良い部屋に引っ越すなんて、考えられない。

 

でも、一生こんな狭い部屋での生活だったらどうしよう?

なんて事が頭をよぎる事もあった。

 

その度私には智くんがいるから大丈夫、と不安をかき消してきた。

 

智くん。ちえりの彼氏。大学時代のアルバイト先で知り合い、以来ずっと友人関係を続けてきたが、ここ最近関係性が変わった。付き合って半年の仲になる。

 

25歳のちえりは何となくではあるが、彼との未来を考えていた。

今の彼と数年以内に結婚し、今よりも良い生活をする事。今より広い家に住み、たまのぜいたくな食事や二人の共通の趣味である映画を楽しむ。

こんなに頑張っているんだからいつか報われる。そんな風に思っていた。今はそんな兆しは見えないものの、彼の中にも何等かの考えはあるはず。そう思っていた。

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